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今回の記事でわかること

ITIL®に「準拠する」ではなく「手本にする」べき理由
ITIL®に基づき業務改善する際に役立つ「継続的改善モデル」とは

ITIL®の適用

今回は、業務改善のためにITIL®をどう活かすかを考えてみたいと思います。

「ITIL®に準拠する」という言い方を目にすることがあります。ITIL®のベストプラクティスには幅広い内容が含まれていますので、その全てに準拠することは非常に困難です。ITIL®に準拠すると言うのであれば、まずITIL®のどの領域かを明確にしなければなりません。

また、ITIL®は多種多様な組織を対象にしているが故に、個々の組織における導入には検討が必要です。例えば、老舗企業とベンチャー企業では文化が大きく異なりますし、ビジネス領域が違えば顧客が求める価値も異なります。あらゆる組織に適したオールマイティな導入方法は存在せず、実際の組織に合わせて、現実的な視点でITIL®を適用していくことが必要です。その意味では、ITIL®は準拠するものではなく、手本として参考にするべきものです。

改善の方向付け

ITIL®4の「継続的改善モデル」は、組織の方向性や現状に合わせながら業務改善を実行し、最終的に改善を成功させるまでの7つの段階を示しています。(図1)

ITIL®4の継続的改善モデル

図1|Copyright © AXELOS Limited 2019. Used under permission of AXELOS Limited. All rights reserved.

① ビジョンは何か?
② 我々はどこにいるのか?
③ 我々はどこを目指すのか?
④ どのようにして目標を達成するのか?
⑤ 行動を起こす
⑥ 我々は達成したのか?
⑦ どのようにして推進力を維持するのか?

まず、最初の3つの段階では、改善の方向性と目標を定めます。

「ビジョンは何か?」では、組織全体のビジネス目標を理解します。業務改善の方向性がビジネス目標と整合していなければ、組織にとって有意義な効果を得ることは望めません。

「我々はどこにいるのか?」では、組織の現状を様々な観点から分析します。ITIL®が示すベストプラクティスと現状とのギャップを認識することで、何を行うべきかを明確にしていきます。

「我々はどこを目指すのか?」では、改善によって目指すべき目標を設定します。業務改善は組織全体が対象となりますが、目標を明確にすることで改善のアイデアに優先順位を付けることができます。

ここまでの3つの段階で、改善の方向性が定まり、目指すべき姿が明確になります。

改善の実行

ITIL®4の継続的改善モデルは、一般的に知られているPDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルの概念を拡張したものです。後続の4つの段階は、PDCAの流れで進めていきます。

「どのようにして目標を達成するのか?」はPlan(計画)です。ここでは改善のためのアクション・プランを作成します。目指すべき姿と現状とのギャップを埋める行動を包括的に検討して、識別された改善案には優先度を付けることが重要です。

「行動を起こす」はDo(実施)です。この段階では、作成したアクション・プランを実行に移します。業務改善はウォーターフォール的に進めるのではなく、アジャイル思考で反復的に進めることが、最終的に改善の成功率を高めます。

「我々は達成したのか?」はCheck(点検)です。ここでは行動の結果と目標の達成度を測定して評価します。必要に応じて行動を是正し、組織が目指すべき姿への変化を確実なものにします。

最後の「どのようにして推進力を維持するのか?」はAct(処置)です。改善前の姿に戻らないように、新しい行動を組織に定着させることが重要です。スタッフが慣れ親しんだ方法に戻るのは容易なことであり、多くの業務改善はここで失敗します。新しい行動が日常的な習慣となり、組織のカルチャとなるように浸透させる必要があります。

ツールの導入

ITサービスマネジメント(ITSM)ツールの導入は、新しい行動を組織に定着させることに貢献します。ITSMツールを組織全体で利用することで、個々のグループで分断されていた情報がリアルタイムに共有されるようになり、複数のグループをまたがったワークフローは迅速化されて、業務の効率性を高めます。ITSMツール内に記録される活動の履歴は、組織のナレッジや教訓として、サービスマネジメントの専門能力を向上させます。

市場にある多くのITSMツールは、新しいテクノロジや消費者のニーズを反映して進化しており、それぞれが特徴を持っています。組織が目指すべき姿に合わせて適切なITSMツールを選択し、業務改善と同期させながら導入を進めることが重要です。

まとめ

今回はITIL®4の継続的改善モデルに基づいた業務改善の進め方を解説しました。

本連載記事について

本連載記事では、ITIL®4やITSMの企業向け研修を担当する講師が、研修受講者から日頃よく受ける質問に答えるような形式で、ITIL®4の重要ポイントをわかりやすく解説しています。ITIL®4への理解を深め実務に活かすための一助として、ぜひお役立ていただけますと幸いです。

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執筆者紹介

DXコンサルティング 長崎健一氏

株式会社DXコンサルティング
DXコンサルティング部
テクニカルエキスパート認定インストラクター
長崎 健一(ながさき けんいち)

外資系コンピュータメーカーにて、ITコンサルタントとして従事し、現在はITSM研修の講師、ITSM導入支援を担当している。

※ITIL(IT Infrastructure Library®)はAXELOS Limitedの登録商標です。


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