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今回の記事でわかること

VUCAに対応する「ハイベロシティIT」とは
サービス化の時代の中でサービス・プロバイダに求められる力

外部要因

今回は、サービス化の時代にあって、サービス・プロバイダに求められる変化対応力について考えてみます。前にも触れましたが、サービスによって価値を創出する専門能力のことをサービスマネジメントと言います。サービス消費者が求める価値は絶えず変化していますので、サービスマネジメントには変化に対応する能力も含まれます。

また、サービス・プロバイダは多くの外部組織との関係性を持つがゆえに、様々な外部要因の影響を受けます。ITIL®4では、考慮すべき外部要因のことを政治的(Political)、経済的(Economic)、社会的(Social)、技術的(Technological)、法的(Legal)、環境的(Environmental)の頭文字からPESTLEモデルと呼んでいます。これらは変動性を持っており、不確実性を含みます。例えば、東欧で起きた一つの武力紛争が世界のエネルギー不足を招き、電力料金を高騰させています。これはITサービスのコスト構造にも影響を与えています。サービス・プロバイダには、このような不確実な状況にも対応できる能力が必要です。

VUCA

VUCAという言葉は、変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の頭文字をとった造語です。一般的にVUCAは複雑な関係性の中に現れます。

近年、ITサービスを取り巻く環境はますます複雑化しており、消費者が求める価値も多様化しています。このようなVUCAといえる状況の中では、将来の市場ニーズを予測することは非常に難しく、サービス・プロバイダにとっての最善策は、市場ニーズの変化を汲み取り、柔軟に対応していくことです。VUCAにおいてサービス・プロバイダが目指すべき姿は、プロセスのデジタル化によって可視性を高め、権限移譲によって迅速な意思決定を可能にし、自律したチームが協力し合って目標を達成する、コラボレーション型の組織の実現です。(図1)

VUCAにおいて目指すべきコラボレーション型の組織

図1

スウォーミング

発生したインシデントを解決する手法として、ITIL®では以前から「エスカレーション」を推奨してきました。最初に1次対応者が多種多様なインシデントに対処しますが、そこでの解決が難しい場合は、該当する領域の専門チームへ対応(エスカレーション)を割り当てます。この手法は、どの専門チームへエスカレーションするかが明解な場合には、効率的に機能します。一方、領域が曖昧な場合には、専門チーム間で「たらい回し」が起こり、解決までに長い時間が掛かってしまう恐れがあります。

ITIL®4では、領域が曖昧なインシデントを短期間で解決する手法として「スウォーミング」を紹介しています。この手法では、初期の段階から各領域の関係者が参画し、領域が判明するまで協力して対応します。近年の高度に複雑化したITシステムにおいては、このようなコラボレーション型の対応が非常に重要になっています。(図2)

インシデント解決手法「エスカレーション」と「スウォーミング」

図2

ハイベロシティIT

サービス化の時代の中で、サービス・プロバイダが競争優位性を維持するためには、市場ニーズの変化を認識して実現するまでの速さ(ベロシティ)が重要になります。新しいサービスの導入、変更、改善、日常的なサービス提供に至るまで、高速性(ハイベロシティ)が重視されます。また、ハイベロシティは顧客体験の向上にも貢献します。

ITIL®4では、デジタル技術を活用してプロセスの可視性と高速性を高め、それによって顧客体験を向上させるサービスマネジメント技法を「ハイベロシティIT」と呼んでいます。その中には、先進的なデジタル企業が実践してきた新しい概念や手法が、数多く取り入れられています。

複雑な関係性を持ち、結果の予測が困難な環境、いわゆるVUCAな状況においては、実験的な取り組みも奨励されています。例えば、ユーザ要件が曖昧な状況において実施される「A/Bテスト」は、実験を通してユーザの嗜好を探っていく手法です。

ハイベロシティITは、サービス・プロバイダがVUCAに対応するための現実的なガイドラインであり、先進的なデジタル企業への実践的なアプローチとなります。

まとめ

今回は、VUCAに対応する「ハイベロシティIT」の考え方を紹介しました。次回は、ITIL®を業務改善に活かすためのネクストステップを考えてみたいと思います。

本連載記事について

本連載記事では、ITIL®4やITSMの企業向け研修を担当する講師が、研修受講者から日頃よく受ける質問に答えるような形式で、ITIL®4の重要ポイントをわかりやすく解説しています。ITIL®4への理解を深め実務に活かすための一助として、ぜひお役立ていただけますと幸いです。

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執筆者紹介

DXコンサルティング 長崎健一氏

株式会社DXコンサルティング
DXコンサルティング部
テクニカルエキスパート認定インストラクター
長崎 健一(ながさき けんいち)

外資系コンピュータメーカーにて、ITコンサルタントとして従事し、現在はITSM研修の講師、ITSM導入支援を担当している。

※ITIL(IT Infrastructure Library®)はAXELOS Limitedの登録商標です。


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