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今回の記事でわかること

ITIL®4の重要な概念「バリューストリーム」「プロセス」とは
バリューストリームの具体例

サービスマネジメントとは

サービス化の時代にあって、サービスプロバイダは信頼性の高いITサービスを安定して提供することが重要なのは言うまでもありませんが、それだけではサービス消費者のニーズを満たすことが難しくなっています。テクノロジの進化は新たな需要を喚起し、新たな競争を生み出しています。サービス消費者は、より便利な機能や、より良いパフォーマンスを常に求めています。そのために、サービスプロバイダにはサービス消費者の変化するニーズに迅速に対応する能力が必要になります。ITIL®4では、サービスプロバイダの専門能力のことを「サービスマネジメント」と言っています。

今回は、サービスマネジメントの側面の一つである「バリューストリームとプロセス」の考え方をご紹介します。

プロセスとは

まずはプロセスの考え方です。ITIL®4では、プロセスを「インプットをアウトプットに変換する、相互につながりのある一連の活動」と定義しています。ここで言うインプットには、活動のためのデータや情報、ナレッジが含まれます。また、アウトプットとは活動によって生み出される成果物であり、活動の結果でもあります。

アウトプットのバラつき(偏差)を小さくすることは、プロセス設計における基本的な考え方です。これまでのITIL®では、サービスプロバイダの活動を可能な限り標準化し、属人性を排除することが重視されてきました。また、活動やアウトプットを測定して科学的な管理を行うことを推奨してきました。この考え方は、ITIL®4でも変わりはありません。

バリューストリームとは

次はバリューストリームです。ITIL®4では、バリューストリームを「サービス消費者に製品やサービスを創出し提供するために組織が実施する一連のステップ」と定義しています。バリューストリームすなわち「価値の流れ」は、顧客の需要の聞き取りから価値の実現までの活動の流れ全体を可視化したものです。

バリューストリームという用語は、元はリーン生産方式の概念であり、さらにその基となっているトヨタ生産方式の考え方を取り入れたものです。(図1)

注文から納入までの全体の流れ

図1

この図では、顧客からの注文をトリガとして「部品加工」「組み立て」「検品」の各工程を経て、製品が納入されるまでの流れを表しています。各工程での所要時間をサイクルタイム、注文から納入までの全体の所要時間をリードタイムと言っています。顧客は待たされることを望まないため、リードタイムの短さは顧客に良い印象を与えます。リードタイムを短縮するには、注文から納入までの流れを可視化し、無駄な要素の排除を検討することが必要です。

ITサービスにおいても同じことが言えます。サービス消費者は待たされることを望みません。例えば、新しい機能要件が素早く実装される、報告された不具合が素早く是正されるなどの所要時間を短縮する改善は、サービス消費者の満足度向上に大きく貢献します。

バリューストリームの設計

ITIL®4では、サービスプロバイダがITサービスを提供するために実行する活動を6つの領域に集約し、それらをサービスバリュー・チェーン活動と称しています。サービスバリュー・チェーンを構成する6つの活動とは「計画」「改善」「エンゲージ」「設計および移行」「取得/構築」「提供およびサポート」です。これらは、バリューストリームを設計する際のベースになります。(図2)

ITIL®4のサービスバリュー・チェーン

図2|Copyright © AXELOS Limited 2019. Used under permission of AXELOS Limited. All rights reserved. Figure 4.2 The ITIL service value chain , ITIL® Foundation ITIL 4 Edition , P.58

バリューストリームの設計では、具体的なシナリオを想定して、バリューストリームの各ステップを文書化していきます。
以下は「新規サービスの導入」のシナリオを想定したバリューストリームの例です。このバリューストリームに含まれるステップは6つです。(図3)

ITIL®4のバリューストリームの例

図3|Copyright © AXELOS Limited 2019. Used under permission of AXELOS Limited. All rights reserved. Figure 4.2 The ITIL service value chain , ITIL® Foundation ITIL 4 Edition , P.58

想定したシナリオに合わせて、各ステップの活動を詳細に文書化していきます。文書化すべき項目には、インプット、アウトプット、目標リードタイム、参考にすべきプラクティス、役割と責任を明確にするためのRACIなどが含まれます。そして、各ステップの詳細な文書化を行いながら、バリューストリーム全体を完成させていきます。

バリューストリームの重要性

これまでのITIL®では、プロセスによって活動を標準化することが重視されてきました。これは間違いではありませんが、課題もありました。例えば、組織がプロセス中心になることにより「価値の創出」が軽視される、他の組織との協調的な振舞いが制限される、などです。

ITIL®4では「価値の創出」への貢献をより明確にするために、バリューストリームの概念が取り入れられました。そこでは、他の組織との協調的な振舞いも奨励されます。

バリューストリームは、サービスプロバイダがサービス消費者の変化するニーズに迅速に対応するための、効率性と柔軟性を組織にもたらすものなのです。

まとめ

今回は、サービスマネジメントの側面の一つである「バリューストリームとプロセス」について説明しました。次回は、価値の共創に関わる「カスタマ・ジャーニー」についてご紹介しようと思います。

本連載記事について

本連載記事では、ITIL®4やITSMの企業向け研修を担当する講師が、研修受講者から日頃よく受ける質問に答えるような形式で、ITIL®4の重要ポイントをわかりやすく解説しています。ITIL®4への理解を深め実務に活かすための一助として、ぜひお役立ていただけますと幸いです。

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執筆者紹介

DXコンサルティング 長崎健一氏

株式会社DXコンサルティング
DXコンサルティング部
テクニカルエキスパート認定インストラクター
長崎 健一(ながさき けんいち)

外資系コンピュータメーカーにて、ITコンサルタントとして従事し、現在はITSM研修の講師、ITSM導入支援を担当している。

※ITIL(IT Infrastructure Library®)はAXELOS Limitedの登録商標です。


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