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前回はエクセルに関するメリット・デメリットをご紹介しました。今回は実際にエクセルを利用したインシデント管理を行った場合の工夫点や落とし穴などを記載していければと思います。
其の二 手動バックアップと自動バックアップを使い分ける。
其の三 排他処理が引き起こす様々なトラブルを想定しておく。
其の四 エクセルファイルが重くなってきた・・・と感じたら。
其の一 エクセルファイルの破損・誤操作による削除は起きるものとして考える
■ ヒューマンエラーを知る
複数人で一つのファイルを管理していると、予期せぬ事態でファイルを喪失してしまうケースがあります。エクセルファイルの破損やヒューマンエラーによる誤削除がこれに該当します。
いずれにしても発覚した時点で作業の出戻りや再入力の工数が発生するため、可能な限りリスク回避を行うよう行動することが重要です。
エクセルのファイル破損は、ハングアップ・フリーズなどの偶発的な原因もあるため予防対策は難しいものですが、ヒューマンエラーの「誤操作による削除」は予め予測を立てられるので、少しでも予防できるように一例を記載したいと思います。
例1:フォルダにあるはずのファイルが無くなっている。
・ファイルを開く時にはクリックにも意識を・・・意図しないマウスの誤操作
ファイルをマウスでダブルクリックで開く際に、少しだけポインタが動いてしまい、別フォルダに移動されてしまうことが意外に多く発生します(内部的にドラッグアンドドロップの操作になっている)。そのためファイルを実行する際にはEnterキーなどを利用すると、このようなミスが起こりにくくなります。
・でもEnterキーのそばには・・・キーボードの誤操作
一般的なキーボードの配列はEnterキーの近くにDeleteキーがありますので、誤って触れてしまうことで誤削除されるケースがあります。ローカルファイルであればゴミ箱に一旦入りますが、サーバー上のファイルはゴミ箱には行かずに削除されるため復元出来ませんので注意が必要です。テンキーがある場合はそちらのEnterキーを使うなどで工夫しましょう。
例2:エクセルのシートに入力した覚えの無い値が反映されている。
・セル入力の仕様を理解して教育する
セルを選択した状態でキーボード入力を行うと、元々入力されていた値を上書きする形で入力した値が入ってしまいます。エクセルを使う上では基本の操作ですが、ダブルクリックないしF2キーで入力する癖をつけるように指導しましょう。
・シートを複数選択する時にも注意が必要
複数のシートを選択した状態で値の入力をすると、選択したシート全ての同一セルに同じ値が入力されてしまいます。複数のシートを印刷などした後にそのまま保存してしまうと、次に開いた時に複数シートを選択した状態で開くことになるため、保存する側・開く側とともに注意が必要です。
これらは新人だけでなくIT業界における経験が長い方でも陥ってしまう操作です。管理者の方々や上司・先輩などはヒューマンエラーのリスクを予め知識に入れておき、教育の場やOJTなどでひと言添えてあげると未来の自分を助けることになるかも知れません。
其の二 手動バックアップと自動バックアップを使い分ける。
■ バックアップは必ず取る+リストアの手間を少しでも軽減する
IT部門への依頼頻度(インシデント管理を更新する頻度)にもよりますが、最低でもバックアップは毎日行いましょう。また、バックアップ日付をファイル名に入れることで、復旧の際に何日前のファイルから戻すかを選べるうえ、実際に何日前のデータから壊れていたか。何時何分時点では?といった原因の深堀が出来るようになります。例:「ファイル名_yyyymmdd.xls」
※エクセルの自動バックアップ機能もありますが、処理が重くなってしまうため、容量が膨大になりがちなインシデント管理には向いていないと感じました。
■ 簡単な自動バックアップをとってみる
万が一の時のためのバックアップですが、毎日手動でバックアップを行うのも手間ですし、取り忘れのリスクも発生します。とりあえず…でも良いので、バッチを作成してタスクに組み込むことで「簡単に自動で定時に」バックアップを行うというのはどうでしょうか。
Windowsに搭載されているタスクスケジューラを利用した場合:
- STEP 1. バックアップを取得するフォルダを作成する。(可能であればサーバー上が望ましい)
- STEP 2. ファイルをコピーするパッチファイルを作成する。(コピー先はSTEP1で作成したフォルダ)
- STEP 3. タスクスケジューラにて作成したバッチファイルを指定し、定時になったら実行するように組み込む。
※タスクスケジューラは コントロールパネル < 管理ツール から開くことができます。(念のため記載しました)
これだけの仕組みで自動バックアップが出来てしまいます。
バッチファイルを作成した事が無い方は、そこだけ最初に時間が掛かりますが、うまく行けば30分程度で自動バックアップの仕組みが出来てしまうため、ぜひとも検討してほしいと思います。
其の三 排他制御は様々なトラブルを引き起こす
■ 排他制御が引き起こすトラップ
エクセルは複数人で同時作業を行うのに適しているとは言えません。それはこのエクセルの排他制御によるものですが、そんな排他制御が悪さをして良く見かけるメッセージがこれ。
―――――――――――――――――――――――――――――
ファイル名の〇〇.xlsは編集のためロックされています。
使用者は”ほかのユーザー”です。
―――――――――――――――――――――――――――――
ではこのメッセージが出力された後のIT部門の動きを見てみましょう。
① まずそのエクセルファイルを誰が開いているかが分からないので、周りにファイルを開いていないか確認します。→誰も開いていません。
② 次に離席中の方がいた場合は、その方が戻ってくるのを待ってから、ロック中のPCを解除して閉じてもらい確認します。→やはり開いていません。
③ 更に他の方もそのエクセルファイルを開こうとすると、最初に開こうとした端末で使用中というメッセージが表示。→うーん…よく分からないから端末を再起動してみるか…
この①~③が慢性的に発生し続けることで、業務効率の低下や大幅な作業時間のロスに繋がることになります。
このようにサーバー上のエクセルファイルが「誰も使っていないのに使用中になる」といったような、排他制御プロセスが残ってしまう事象が多く報告されています。
この「予期せぬ排他制御」が掛かってしまう原因は様々で、「突然の停電で端末が落ちた」「エクセルがプロセス停止して強制終了された」など、原因の特定が難しいことが特徴です。
エクセルでインシデント管理をするうえで、この排他制御は起きる可能性があると思って作業を行う必要があります。
其の四 エクセルファイルが重いと感じたら、ここを調べよう。
日々記載内容を追加していくインシデント管理ですが、データ量が多くなってくるとエクセルファイル自体を開くのも、編集を行う際にも処理速度の低下により、時間が掛かるようになってしまいます。
遅くなるきっかけはファイルサイズが大きくなることが原因ですが、その要因は様々です。エクセルが重いなーと感じたら、次に記載する事を試してみてください。
■ 膨大な情報量が原因
原因① 行または列の情報量が大きくなっている
インシデント管理は1件1件記載する必要があります。しかしエクセル2016までの仕様では、
最大行数…1048576行 最大列数…16384列 となっています。
処理対象のデータ量が1000行を超えたあたりから動作が重くなりますので、年度ごとにファイルを分けて管理する必要があります。
原因② 画像ファイルが多く挿入されている
エビデンスやマニュアル用の画像などはインシデント管理の上で必要ですが、エクセルにそのまま挿入するとすぐに重くなってしまいます。
第2回にも記載しましたが、エクセルはファイル添付に特化していないため、画像や資料を別途格納したフォルダを作成し、リンク先を記載する等で対応する必要があります。
■ 見えない部分に落とし穴が・・・
原因③ 非表示のセルや一見値が無いように見えるセルにもデータが隠れている
ファイルの中でセルをコピーして使い続けていると、気が付かないうちに”条件付き書式”の設定や、数式までコピーされている事が多く見受けられます。また、エクセル内のURLがリンク切れを起こしていると、エクセルを開くたびに参照先を探しにいくため、非常に時間が掛かるので注意が必要です。
普段使用しているエクセルに不要なルール、またはリンク切れのURLが無いか定期的に棚卸するように心掛けましょう。
~ まとめ ~
今回はエクセルでインシデント管理を行う場合のリスクやワンポイントをお伝えしました。予防策を考えても、対策を講じてもトラブルというのは予期せぬところから生まれます。今回の記事が少しでもそれらトラブルの軽減に繋がれば幸いです。
次回のテーマは「エクセルから脱却したいけれど出来ない理由」です。
≫第4回 エクセルから脱却したいけれど出来ない理由
≪第2回 エクセル(Excel)がもたらすメリット・デメリット
◆筆者紹介
株式会社DXコンサルティング 株式会社DXコンサルティング(旧 株式会社フェスITSM事業部)に所属し、2019年11月よりManageEngineのITSM分野のアンバサダーとして従事。大規模病院のITサービスデスクにおいて運用サポートを経験。10年間で1万5000件を超える案件に対応。電子カルテの問い合わせ窓口や操作研修の実演、端末・プリンタの設置対応をはじめ、カルテのテンプレートを500件以上作成。電子カルテの頻用項目の簡略化による医師の入力負担軽減に加え、後利用・研究に活かせると言った所謂”医療ビッグデータへの活用”に繋がる部分で、多数支援を行った。院内会議の調整や関係各所との折衝を含め、医師や看護師といった方々と積極的にコミュニケーションを取ることで、院内の負担軽減に繋がるような提案を繰り返し行ってきた。 |
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