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デジタル技術が社会を大きく変え続けているこの頃、IT業界で注目されているキーワードのひとつに「自治体DX」というものがあります。
仕事や家庭でITに触れる機会がないような方にとっても、ふだんの生活がガラッと変わるかもしれない可能性を秘めた「自治体DX」。
「政府の狙いは?」
「具体的になにが変わるの?」
「いつから始まるの?」
こういった疑問について、政令指定都市で行政職員として勤務した経験がある筆者が解説します。
自治体DXとは
まずは自治体DXの概要をご紹介します。
その名のとおり、「自治体」を「DX」することを指します。
それぞれの言葉の意味も、改めておさえておきましょう。
言葉の意味をおさらい
自治体とは
一定の場所を自治する組織。地方公共団体とほぼ同意。県庁・市役所・町役場などが挙げられます。
DX(Digital Transformation)とは
ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること。特にビジネスや組織についていう場合、デジタルを用いて既存の枠組みや仕組みを変革することを指します。
自治体DXの具体例
もう少し具体的に、自治体をDXするとはどういうことなのでしょうか。
総務省の自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画(令和2年12月25日)では、以下のように記載されています。
自治体においては、まずは、
・自らが担う行政サービスについて、デジタル技術やデータを活用して、住民の利便性を向上させるとともに、
・デジタル技術や AI 等の活用により業務効率化を図り、人的資源を行政サービスの更なる向上に繋げていく
ことが求められる。
たとえば、AIやクラウドサービスといった新しい技術を利用した、よりよいサービスの提供や、デジタル技術を活用した職員の業務効率化などが、自治体DXに含まれると考えてよいでしょう。
自治体DXの重点取り組み事項とは?
自治体DXの中でも、国が重点的に取り組むものとして、以下の6点が挙げられています。
順番に、もう少し詳しく見ていきましょう。
自治体の情報システムの標準化・共通化
自治体DXの大本命と言っても過言ではない大きな変革が、「自治体の情報システムの標準化・共通化」です。
これまで、自治体のシステムは別々に作り、保守されるものでした。
たとえば、A市はaというIT企業に委託し、住民記録に関する業務システムを作る。
一方、B市はbという別の企業に委託して独自に開発する、という具合です。
そのため、同じ住民記録システムでも、自治体によって少しずつ異なる点がある、またデータ連携がしにくい、といった不都合が生じていました。
市役所で引っ越し手続きをするとき、同じ市内での引っ越しなら簡単に済むのに、違う市に引っ越す場合は必要な書類が多くて大変、といった実情にはこうした背景があります。
こうした不便な状況が自治体DXで変わるかもしれません。
個々の自治体で管理していたシステムを、国がまとめて作って管理してしまおう、というのが「自治体の情報システムの標準化・共通化」のざっくりした意図です。
また、この標準化・共通化を実現するために必要な仕組みが「ガバメントクラウド(Gov-Cloud)」と呼ばれるものです。
ガバメントクラウドについては、以下のブログ記事でも詳しくご紹介していますので、ご興味がありましたらご覧ください。
【ブログ記事】デジタル庁の重大事業ガバメントクラウドとは?知っておくべきポイントを解説
マイナンバーカードの普及促進
皆さまよくご存じの、マイナンバーカードの普及促進が2点目です。
マイナンバーカードは、国民ひとり一人に割り当てられたマイナンバー(個人番号)を基に、個人を識別するためのICカードです。
本人確認書類として使えるほか、健康保険証としても利用可能になるなど、使い道がますます広がっていますね。
政府としても、テレビ広告を大量に流したり、カード申請者に対して買い物で使えるマイナポイントを付与するなど、かなり力を入れて普及を目指しています。
政府がここまで注力する狙いはなんでしょうか。
最大の目的は、本人確認のオンライン化です。
後述するように、国は行政手続きのオンライン化を目指しています。
住民の利便性を向上させる点でも、職員の業務負荷を下げる点でも大きなメリットが見込まれる政策ですが、現状では、本人確認が大きなネックとなってしまうのです。
行政手続きのほとんどは、本人確認をしなければ行えません。
今までのやり方では、どうしても住民が直接、役所に出向いて本人確認書類を見せてもらう、というプロセスが必要になります。
これをオンラインで実行可能にするため、マイナンバーカードの普及を目指しているのです。
既に体験された方もいらっしゃると思いますが、マイナンバーカードには、スマホなどを利用してオンラインで本人確認ができる機能が備わっています。
しかもとても簡単です。
手続きのオンライン化を実現するために、政府としては大量にお金を投資する価値がある政策なのです。
自治体の行政手続のオンライン化
行政手続きのオンライン化が3点目の取り組みです。
オンライン化により、住民サービスの向上や業務の効率化などのメリットがあるとされています。
優先的に取り組むべき手続きとしては、たとえば「図書館の図書貸し出し予約等」、「自動車の保管場所証明の申請」、「氏名変更/住所変更等の届出」といった、多くの住民に関係のあるものが選定されました。
すでにいくつかの手続きは、「マイナポータル」というオンライン申請受付アプリ上で行えるようになっています。
今後、より多くの申請や届け出が、パソコンやスマートフォンで可能になっていくでしょう。
自治体のAI・RPAの利用推進
民間企業の間でも関心を集めている、AI・RPAに政府も注目しています。
AI・RPAの意味
AI(Artificial Intelligence):
データを自ら読み取って学習し、進化していくという特徴を持ったコンピューターのこと。「人工知能」と訳します。
RPA(Robotic Process Automation):
人間が行っていた作業をコンピューターで自動化すること。
AIの例としては、iPhoneのしゃべるアシスタント「Siri」などが挙げられますね。
AI・RPA導入のメリット
AIやRPA導入のメリットも、手続きのオンライン化と同じように住民サービス向上と業務効率化が主なものです。
これまでに導入されている事例もご紹介します。
さいたま市では、保育所入所選考をAIによって自動化されていたり(1,500時間かかっていた作業が数十分で終わるとのこと)、神戸市ではAIを利用した市民向け健康管理アプリが提供されています。
AIでいうと、都道府県の68%、指定都市の50%、その他の市区町村の8%で導入されています。
またRPAの導入割合については、都道府県が49%、指定都市が45%、その他の市区町村が9%だそうです。
私は「思ったより多くの自治体で導入されているな」と思ってしまいました。
勉強不足ですね……
テレワークの推進
実は、セキュリティやデータの持ち出しに厳しそうな自治体でもテレワークは推進されています。
公務員の多様な働き方を実現する「働き方改革」や、新型コロナウイルスのような非常時でも、行政機能を維持するといった狙いがあります。
手続きや業務のデジタル化が進めば、テレワークができる範囲もますます増えていくでしょう。
セキュリティ対策の徹底
デジタル化にあわせ、必ず考えなければいけないのがセキュリティ対策。
セキュリティレベルの向上も当然、重要な取り組みのひとつと位置づけられています。
具体的な取り組みとして、「自治体情報セキュリティクラウド」というものがあります。
簡単に言うと、小規模な市区町村から大きな都道府県庁のネットワークまで、ITシステムのセキュリティを都道府県単位でまとめて高度化する仕組みです。
当社が位置する神奈川県の例で言うと、神奈川県庁や横浜市役所、横須賀市から箱根町まで、役所で使うITシステムやネットワークをまとめて「神奈川県情報セキュリティクラウド」を利用することで、セキュリティを向上させることができます。
これによって、予算が少ない小規模な自治体でも高度なセキュリティ対策を実施できるようになりました。
自治体DXのメリットは?
自治体DXにおける狙いは大きく3点です。
コスト削減
システムの標準化・共通化で実現したい項目ですね。
これまで、各自治体は別々にITシステムを開発していました。
これを共通化によって一本化することで、開発やメンテナンスにかかるコストを削減しようという狙いです。
システム開発に関わる職員の業務も減るので、人件費の削減という点でも効果がありそうですね。
住民サービス向上
申請手続きがオンラインで行えるようになれば、住民にとっても非常に便利です。
「市役所に用事があるのに休日は役所が開いていない……平日は仕事があって行けない……」なんて困ることもなくなります。
またデジタル化によって、ワンストップサービスも推進しやすくなります。
ワンストップサービスというのは、今まで複数の手続きが必要だった処理をひとつの窓口で実行できるようにし、手続きの負担を軽減するためのサービスです。
有名な例で言うと、家族が亡くなったときの「おくやみコーナー」がありますね。
従来、家族が亡くなったときの死亡・相続に関する手続きが大量にあることが問題視されていました。
死亡届や年金手続、不動産名義変更など、その総数は67にものぼり、1日かけても全て終わらないというケースも珍しくなかったそうです。
大切な人を亡くし気持ちの整理もつかない中、葬儀の準備もしなければならない遺族にとって、これらの手続きが大きな負担となっていました。
これをひとつの窓口で完結できるようにする取り組みが「おくやみコーナー」です。
実現に向けては、システム改修やデータ連携が課題のひとつとなっていました。
おくやみコーナーと同様に、複数の手続きをまとめて行える「ワンストップサービス」が、デジタル化によってより容易に実現できるようになります。
職員業務効率化
職員の業務負担についても大きなメリットがあります。
「自治体のAI・RPAの利用推進」の説明でご紹介したように、自動化によって職員の業務効率化が実現した例としてさいたま市が挙げられます。
さいたま市では、AIによって保育所入所の選考業務を自動化したことで、実に1,500時間分もの業務時間を削減できたとのことです。
また、膨大な定型業務を削減することで、残業を減らし人件費を圧縮したり、住民サービスの向上により集中できたり、といった効果も期待できますね。
具体的なスケジュールは?
自治体DXはいつから始まるのでしょうか?
「既に順次始まっている」というのが答えになります。
マイナンバーカードの利用者は年々増加していますし、AI・RPAも多数の自治体で導入されています。
また、役所の手続きのうち、特に利便性向上に重要な31点は、2022年度末までに全自治体でのオンライン化が目標とされました。
実現に最も時間がかかりそうな、システム標準化・共通化のカギとなる「ガバメントクラウド」は2023年度から移行を開始し、2025年度末までに全自治体で完全移行される予定となっています。
変化が遅いとよく指摘される行政組織でも、既に大きな変化は始まっているんですね。
具体的になにをしたらいいの?
「役所がいろいろ変わるのは分かった!それで、一般の市民は何をすればいいの?」という話をします。
自治体DXによる恩恵を享受する方法
すでに一部のサービスについては、自治体DXによって変化が起きています。
ここまで紹介してきたように、全てよりよい住民サービスを提供するために行われていることですので、興味があるものを試してみましょう。
マイナンバーカードの申請
手続きをオンラインで行うために必要なものです。
写真付きの身分証明書としても使えますし、マイナポイント事業によって、民間サービスの買い物などで使えるポイントももらえます。
ちなみに私は楽天Edyでもらいました。
注意点や申請方法は以下のサイトに記載されています。
マイナポータルの活用
マイナポータルは、行政の手続きをオンラインで行うための窓口となるサービスです。
まだ行える手続きは多くありませんが、たとえば東京都港区では「出産費用の助成」、「子ども医療証交付申請」といった手続きが電子申請できるようになっています。
その他、「マイナンバーカードの健康保険証として利用するための申込み」や「年金記録・見込み額の確認」といったことも可能です。
活用できるものがあれば、マイナポータルを使ってみてください。
トップページ | マイナポータル(別のサイトにジャンプします)
役所の新しいサービスの利用
各自治体でも、デジタルを利用した新しいサービスが提供されています。
自動音声による行政サービスの案内や、LINEアカウントによる情報発信が行われています。
私は粗大ごみの予約を、市が運営するLINEアカウントからの操作で行ったことがあります。
非常に簡単で便利でした。
お住いの自治体ではどんなサービスが提供されているのか、ぜひ調べて利用してみてください。
IT企業にとっては商機になるかもしれない
ここからは少しマニアックな話になります。
IT企業にとっては、自治体DXが新たな商機になるかもしれません。
自治体が新たなデジタルサービスを始めるということは、それだけIT投資が行われるということを意味します。
これを受け、「GovTech(ガバメント + テクノロジー)」と呼ばれる行政向けITサービスが盛り上がりを見せています。
AWSやマイクロソフトなどの巨大IT企業は、GovTech企業を支援する事業を始め、自治体DXの商機を逃さない構えを見せています。
SIer企業の中には、自治体DX支援によって多額の売上げを生み出しているところもあります。
もしあらたな分野を開拓したいというのであれば、自治体DXに付随する市場を狙うのも一手かもしれません。
GovTech企業の商機については、以下のブログ記事でもご紹介しています。
【ブログ記事】デジタル庁の重大事業ガバメントクラウドとは?知っておくべきポイントを解説
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