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近年、ITシステムがますます大きな影響力をもつようになってきました。
DXや業務のオンライン化などの恩恵も大きい一方、障害が発生した際には経営責任を問われることも多々あります。
例えば2020年10月の東京証券取引所の株式売買システム「arrowhead」の障害は、東証の社長が引責辞任する事態にまで発展しました。
また2021年に発生した、みずほ銀行の8件のシステム障害を巡っては、みずほ銀行やみずほフィナンシャルグループの代表者を含む4名の役員が辞任すると発表しています。
ITシステムは今や、ビジネスの浮き沈みを左右するといっても過言ではありません。
この安定性を維持するには、APM(アプリケーション性能管理)と呼ばれるツールが有効と言われています。
この記事では、APMの概要や利用メリットを分かりやすくご紹介します。
ITシステムを有効活用するため、ぜひ参考としてください。
APM(アプリケーション性能管理)とは
APMとは、Application Performance Managementの頭文字をとった略語で、一般的にはアプリケーションやシステムの性能を管理・監視することや、そのためのツールを指します。
近年のシステム開発の加速にともなって普及してきた、マイクロサービスや分散化したアーキテクチャーに対応するために、広く使われるようになったツールです。
従来のモノリシック(一枚岩)なシステムでは、「ログ」やCPU使用率などの「メトリクス」の監視が一般的でした。
単純なシステムに対しては、こういったシンプルな監視手法でも十分に機能していたのです。
ただし、最近の分散化した複雑なシステムについては、この手法だけでは通用しません。
サービス間でのやり取りや、アプリケーション内部の処理まで含めて多角的な監視が必要です。
複雑なシステムは多くのサービス間で連携する分、障害の原因箇所の特定が難しいとされているのです。
こうした複雑な監視に対応するため、APMツールには一般的に下記のような機能が備わっています。
アプリケーションの処理解析機能
アプリケーションの内部の処理や性能までを詳しく監視する機能で、「APMといえばこれ」と言われるような代表的な機能です。
モノリシックなシステムにしか対応していないものもありますが、近年のAPMツールでは分散システムに対応したものもあります。
これを利用することで、複数サービス間の処理経路や処理時間まで記録し、依存関係やボトルネックまでを簡単に把握することができます。
複雑なシステムのどこで時間がかかっているのか、障害を引き起こした原因はなんなのか、といったことを調査するのに非常に有効な機能です。
外形監視機能
外形監視機能はエンドユーザーがアプリケーションを使うときと同じ視点から、性能や処理時間を確認できる機能です。
たとえば、とあるシステムにログインし、ホーム画面を表示するという一連の動きの中で、問題なく動作するかどうか、あるいはどのステップで時間がかかっているのか、といったことを確認できます。
こちらも分散化したシステムの監視に適応するために必要な機能です。
従来のメトリクスなどの監視だけでは、ひとつひとつのアプリケーションの動きは把握できても、全体の処理をまとめて見ることはできません。
そのため、分散化したシステムでは監視に時間がかかったり、サービス間の連携に関する問題は把握できないという問題がありました。
外形監視機能を活用することで、ユーザーが実際に使う場合の問題をまとめて確認することができます。
そのため、システムの安定性を高めることはもちろん、顧客満足度を高める意味でも重要な役割を果たします。
重要な情報を抽出、可視化する機能
監視データのレポート化やダッシュボード(データをグラフの形にして一覧で表示する画面)によって、必要な情報を分かりやすくするための機能です。
システムが複雑になるにつれ、監視データも増えていきます。
障害が発生した緊急時において、この膨大なデータをすべて確認する時間はありません。
そのため、システムの稼働に決定的な情報を抽出し、可視化する機能が重要になってきます。
こうした情報の一元化、可視化によって、障害時の緊急対応や保守業務を支援することができます。
APMの利用メリット5選
この章では、APMツールを利用することによって、企業や情報システム部が得られるメリットを5点まとめました。
障害の予兆を事前に検知できる
システムに障害が発生する前から、なんらかの予兆があって対応できるケースが多々あります。
APMツールには、こうした予兆を検知できる機能が備わっていることが多く、大規模な障害が起きる前に対処することが可能です。
ツールによってできることに差はありますが、たとえば下記のような機能が活用できます。
可変しきい値
従来のしきい値を、より実態に合った値に設定するための仕組みです。
管理者がしきい値を設定する手法とは異なり、過去の監視データを用いて、ツールが自動に適切な値を算出してしきい値を設定します。
たとえば「過去一週間のパフォーマンスデータの平均値+10%」をしきい値に設定すると、そのシステムの利用実績に合わせたしきい値が毎週新たに設定されることになります。
アノマリ検知
アノマリ検知は、平常時のパフォーマンス値の範囲から外れた挙動を示した場合を「異常」として扱います。
ある値を超えたら障害と判断するしきい値と異なり、アノマリ検知はパフォーマンスデータから監視データが取るべき正常な値の「範囲」を判断します。
データ予測
過去の監視データの傾向から、将来のパフォーマンス値を予測することです。
たとえばサーバーやストレージのディスク容量などにおいて、過去の利用実績と変化の傾向のデータがあれば、将来的にいつ頃ディスクの空き容量がなくなるのかを予測できます。
データ予測が可能になれば、システム管理者は問題が発生する前に事前に対処することで、障害の発生を完全に予防することが可能です。
コードレベルまでボトルネックの検出が簡単
アプリケーションのソースコードレベルまで深堀りし、不調や遅延の原因となっている箇所を簡単に調べられる機能です。
「メトリクス」の監視だけでは、システムになんらかの問題が発生していることは確認できても、問題の原因までを直接的に把握することはできません。
分散システムの場合は、サービス間の連携が多く、システム全体像の把握も難しくなるため、なおさら原因の調査に時間がかかります。
APMツールでは、アプリケーションの内部処理まで細かく解析し、簡単に原因を調べることができます。
そのため、アプリケーションの処理遅延を引き起こすボトルネックを簡単に見つけられます。
ただし、こういった機能を利用するには、エージェントのインストールやスクリプトの埋め込みをしなければなりません。
そのため、新たにアプリケーションを開発する際は、設計する段階からAPMツールを組み込んでおくのがオススメです。
レポートでパフォーマンス分析が簡単
レポート機能やダッシュボード機能を利用することで、保守運用に重要なシステムのパフォーマンス分析が簡単になります。
ビジネスに大きな影響を与えるシステムを安定して運用するには、サーバーとアプリケーションのパフォーマンスの傾向を分析し、稼働状況に問題がないかを把握しなければなりません。
ただし、システムの複雑化やシステムそのものの数が増えているため、全ての監視データを把握するのは困難です。
多くのAPMツールには、サーバーやアプリケーションの可用性・パフォーマンス情報を自動で収集し、一目でわかるように可視化する機能があります。
必要な情報をまとめるレポート機能や、頻繁に参照するデータをグラフ化して表示するダッシュボード機能によって、膨れ上がる監視データから重要な情報をまとめて確認することができるようになります。
障害対応の迅速化
上記のボトルネック特定やパフォーマンス分析機能によって、障害への対応を迅速化できます。
トラブル発生時はビジネスや顧客への影響を最小限に抑えるため、迅速にシステムを復旧させなければなりません。
ただし、時間的成約がある中で適切な判断を下すことは、熟練のシステム担当者にとっても非常に難しい作業と言えます。
APMツールは、解析機能によって原因の特定を簡単にし、可視化機能によって必要な情報を提示して意思決定を支援します。
その他、ツールによっては問題を検知したときに、システムの再起動やスクリプトの実行を自動化する機能があります。
こういった機能があるのとないのとでは、障害復旧にかかる時間が大きく変わってきます。
ユーザー体験の向上
外形監視機能などの利用によって、ユーザー体験(UX)の向上につながります。
Webページの表示速度が遅くなると、コンバージョン率が低くなったり、離脱率が高くなったりするという話は有名です。
せっかく作ったページやシステムでも、ユーザーが離れてしまってはなんの意味もありません。
処理速度を高め、よりよいユーザー体験を提供するためにもAPMツールが有効です。
こちらも今までの話と同様、従来の「ログ」や「メトリクス」の監視だけでは達成できない部分です。
複雑なシステムをすべてまとめて監視し、遅延の原因となっている箇所を迅速に見つけるには、APMツールの外形監視機能などを活用する必要があるのです。
APMを活用し安定したシステム運用を実現しよう
ITシステムの影響力が大きくなった今、システムの効果的に運用することも企業の大切な責務です。
DXやオンライン移行にあたっては、システムの安定性を高めることも同時に検討しなければなりません。
まずは本記事を参考に、APMツールを活用することを検討してみてください。
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