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当連載記事について
当連載記事では、ITIL®の研修を多く手掛ける専門家が、分かり易い口語体でより実際的な観点からITIL®を解説しています。サラッと読みながらもITIL®に基づいた考え方をより実践的なレベルへ落とし込むことができます。また、ITIL®に準拠するための機能を備えたITサービスマネジメントツール「ManageEngine ServiceDesk Plus」を提供するゾーホージャパンより、欄外コラムとしてツールの詳細や関連機能の説明を行います。ITIL®の概念を把握しつつ、ツールを活用した場合のイメージを広げる際の一助となりましたら幸いです。※ITIL® is a Registered Trade Mark of AXELOS Limited. |
はじめに
再び「財務管理」、私の好きなお金の話です(笑。
第五回の記事「サービス・プロバイダも生活がかかっている」では、サービスストラテジ(SS)のフェーズでサービスに対する需要を予測し、それに合わせた投資をすることで無駄を防止すると話しました。また、第六回の記事「サービスを作ろう」では、ITサービスの売価を決める話をしました。いずれもお金の話なのでITサービス財務管理プロセスが関係します。今回はその続きの話です。
<「財務管理」を含むプロセス図>
ITサービス財務管理プロセスで行うことは何か?
まず、ITサービス財務管理プロセスが対象とするものは何かというと、それは「お金」です。ただ、お金と言ってもITIL®ですから、あくまでも「ITサービスに係るお金」です。組織全体のお金の管理は、経理部門で行うと思いますが、その中でもITサービスに係る部分のみ、ITサービス財務管理プロセスで扱うというわけです。
次に、ITサービス財務管理プロセスで行う主な活動は何かというと、「予算業務」、「会計業務」、「課金」の3つです。このうち「予算業務」と「会計業務」が、いわゆる予実管理に相当するとご理解いただいて、差し支えないと思います。「課金」は、お金を請求して回収する活動を指します。
「予算業務」と「会計業務」について
ということで、まずは「予算業務」と「会計業務」のご説明をします。先ほども記載した通り、「予算業務」と「会計業務」は予実管理だという話をしました。なので、行うことは「予算を組んで、その予算に基づいてお金が使われたということを管理する」そして、「使ったお金の用途を明確にする」ことになります。行うことはこれだけです。
しかし、ITIL®が目指しているのは「コストの削減」です。これは、削減したコストの一部を使ってサービスの品質向上に役立てることを考えているからでしょう。ということは実績管理の他に、おのずと「予算」が重要になってくるということです。なぜなら、実績の管理だけではいくら投資に回せるかわからないからです。
だから、どのサービス(の拡張/維持/追加等)に、どれだけの期間でどれだけの金額を投資するか(つまり「投資予定額」)や、その投資予定額に対して、どれだけの期間でどれだけの金額を回収するのか(つまり「回収予定額」)を決める。そして、それらの予定額に対して、実績として「どれだけ投資されたか」「どれだけ回収できたか」を確認するということになります。
もちろん、実際には細かい経費も管理していくことになるとは思いますが、大枠でとらえた場合は、これらの投資予定額、回収予定額とそれに対する実績の管理が「予算業務」と「会計業務」ということになるでしょう。
「課金」について
もう一つ、ITサービス財務管理プロセスでは「課金」という業務があります。課金とは顧客に請求して、その請求したお金を回収することが含まれます。が、そもそも課金するためには、売価が決まっていないとなりません。
では、売価はどこで決めるのか。売価も、もちろんお金に関することなのでITサービス財務管理で決めます。どうやって決めるのかというと、まず、ITサービスに対して課金方針(課金の有無やコストの回収率等)を決めます。そして、この方針に沿って、最終的にITサービスに値付けすることになります。
当然、売価決めはITサービスに対して行うため、SPM(サービス・ポートフォリオ管理)が行うITサービスの新規追加、廃止、変更とも連携する必要があります。もちろん、ITサービスに対する需要も関係してくる。需要が少なければITサービスが成り立たないし、多ければそれに耐えられるITサービスにしなければならないから、お金がかかる。つまり投資額が増える。なので、「予算業務」、「会計業務」、「課金」という3つの業務がメインなのです。
課金については、主にITサービスが始まってから活動するので「サービスオペレーション(SO)」のフェーズに含む方が適切と思われるかもしれないですが、投資や回収も含めて金銭的な戦略を考えるプロセスなので、サービスストラテジに位置づけられているのです。
<サービス・ライフサイクルの5フェーズ>
それが「サービスデザイン(SD)」とどう関係するの?
ところで、今回の記事は第八回です。第七回では、「サービスデザイン」というフェーズの4つのプロセス(可用性管理プロセス、キャパシティ管理プロセス、ITサービス継続性管理プロセス、情報セキュリティ管理プロセス)のお話をしました。
ITサービス財務管理は「サービスストラテジ」のプロセスなので、「何をいまさらこのタイミングで説明しているのか?」と思われる方がおられると思います。確かにその通りで、サービスストラテジの話なのでもっと前のタイミングで話してもよかったのですが…、お金の話は忘れられてしまうんです。
私はITIL®の講師もしているのですが、(短絡的な表現になってしまうかもしれませんが)「ITIL®ではお金の話は全てITサービス財務管理プロセスですよ」と説明して、翌日に「お金に関する情報はどこのプロセスに渡せばよいですか?」と受講生に聞いても、だいたい「どこ?」「プロセス?」という反応が返ってきます。たぶん、「お金」は身近にありすぎ、かつ「管理して当然」という思いがあるので、改めてITIL®のプロセスとして位置付けられても聞き流されてしまうのだと思います。
そして、さらに言うと、サービスデザインのフェーズまで来て初めてコストらしいコストがかかってくるんです。サービスストラテジでは戦略を立てるための工数(つまりコスト)がかかってます。が、実際にはそのコストはあまり組織の中で考慮されない。少なくともITサービスには紐づけない。間接費のように共通費用として扱われていますから。
しかし、サービスデザインのフェーズになれば、もっと具体的にITサービスに紐づく形でコストがかかってくる。ITサービスを設計するために専門家が活動するし、設計用のツールも購入する。また、ITIL®のフェーズではないですが、設計の横で開発プロセスも開始され、そうなれば当然開発費用がかかってくる。サービスストラテジより先のフェーズではITサービスに対するコストが如実に現れてくる。にもかかわらず、ITIL®ではITサービス財務管理プロセスがサービスストラテジにあるため、お金に関する活動の連携が抜けてしまうことがある(正確に言うと明確に意識されないことが多い)。だから、改めてサービスデザインを扱っているこのタイミングでお話しています。
あともう一つ、改めてこちらも意識してほしいことがあります。先ほども書いたようにITサービス財務管理プロセスには、「予算業務」と「会計業務」があって、それらの業務で予実を管理している。ということは、サービスデザイン以降で実際にかかったコストはすべてITサービス財務管理プロセスに連携しないとならない。そしてITサービス財務管理プロセスはその実績をもとに、「今後も予定通りITサービスの開発や提供をし続けてよいか」を考えなくてはならない。
だから、ITサービス財務管理プロセスは、サービスストラテジのプロセスではあるものの、フェーズに限らず常にどのタイミングでも様々なプロセスと連携して予実を管理していく必要がある。そうやって、ITサービス財務管理プロセスが予実を管理することができれば、お金の可視化につながり、お金を可視化できればコストが無駄になっている部分がわかるようになる。当然コストの削減にもつながるということになります。
ITIL®が目指していたことの一つは「コストの削減」ですからね。企業活動の中では、お金の予実管理は当たり前のことなので、ITIL®で話をしても見過ごされてしまいます。しかし、ITIL®の成り立ちから考えたら聞き流してよいプロセスではないということです。だからあえてサービスデザインの話をした後に、改めてお金の話(ITサービス財務管理プロセス)の話を持ち出してみました。
最後に
次回は、サービスを本番環境に移行するサービストランジションのフェーズについてお話します。
>>記事一覧:ITの品質向上とコスト削減からとらえたITIL®
執筆者情報
日本クイント株式会社 コンサルタント 吉村友秀(よしむら ともひで)主要資格:ITIL® エキスパート、公認情報システム監査人(CISA) |

ServiceDesk Plus導入時のコスト削減ポイント
連載コラムをご一読頂き、ありがとうございます。今回の記事では、「ITサービス財務管理」というプロセスが「サービスストラテジ(SS:戦略)」というITIL®の最初のフェーズに含まれているということ、そしてこのプロセスが「ITサービスのコスト削減」を行う上で重要であるにも関わらず、意外と見落とされがちだという事が紹介されていました。
普段、なんとなくITIL®の用語を使っているだけではなかなか認識できないポイントですが、改めて説明されるととても納得感がありますね。
さて、ITIL®とは関連しませんが、お金の話題になったところで、今回のコラムでは「ServiceDesk Plusを導入する際のコスト削減ポイント」についてお話いたします。
ServiceDesk Plusは、ITIL®に準拠するための機能を備えたITSMツールです。そのため、ITIL®に則った業務プロセスの整理を行う上で、スクラッチからシステム開発を行うよりは遥かに効率的な実装が可能です。
しかし一方で、「とりあえずツールさえあれば何となる」という発想から「ツールの導入そのものが目的」となってしまうことは、あまりお勧めできません。当社はメーカーの立場なので、ともすれば「ツールライセンスさえ売れれば何でもいいのでは?」と思われるかもしれませんが、やはりそうではありません。
ServiceDesk Plus導入による業務効率化やコスト削減のメリットを最大限に感じ、長期的なご利用をご決定頂くことで、はじめてお客様とメーカー双方のメリットが生まれると考えるためです。そのためには、ツール導入に先行する初期アセスメントが重要な鍵となります。
ServiceDesk Plusは、導入やカスタマイズが簡単で、価格帯も安価です。とは言え、どんなプロジェクトでも目標設定が曖昧であったり、担当者が片手間でしか作業できなかったりする場合は、ROIが測定できなかったり、プロジェクトの進捗遅延が発生したりしてしまいます。
よくあるケースとして、下記のような例が挙げられます。
・当初は自力での実装を目指していたが、担当者が兼務のため工数を割けず、ツールのライセンスだけお蔵入りになってしまった
・計画時の設計が甘く、後からどんどん実装内容の変更を行ったために実装支援費が2倍になってしまった
上記は、ServiceDesk Plusの特長を上手く生かせなかったケースと言えます。導入費&運用コストを抑え、プロジェクトをより効果的に遂行するために、アセスメント力の高いSIerを選定したり、最初に自社向けのツール運用トレーニングをしっかり受けて、内製的な運用スキルを向上させたりすることをお勧めします。
<相談をしたくなったら…>
ManageEngineはメーカーの立場なので実装支援は行っておりませんが、アライアンス先と提携してご提案することは可能です。もし、「何から手を付けていいか分からない」などのお悩みがございましたら、以下もお気軽にご利用ください。
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